概要
genpack/genpack-progs は、genpack イメージのビルドプロセスで使用されるサポートツール群をまとめたパッケージである。すべての genpack プロファイルで暗黙的に含まれ、イメージビルド時のファイル収集、依存関係解決、メタデータ生成、外部リソースのダウンロードなどを担う。
各ツールはかつて外部リポジトリ (genpack-progs) から取得していたが、現在は ebuild の files/ ディレクトリにインライン化されている。
インストールされるコマンド一覧
ビルドコアツール
イメージビルドの中核を担い、genpack 本体から直接呼び出されるツール群。
| コマンド | 説明 |
|---|---|
genpack-package-scripts |
パッケージ固有のポストインストールスクリプトを実行する |
genpack-generate-metadata |
/.genpack/ 以下にメタデータを生成する。イメージへ書き込む処理がすべて終わった後に実行される |
genpack-copyup |
overlayfs の copy-up を利用してランタイムパッケージのファイルを Upper 層へ転送する |
execute-artifact-build-scripts |
アーティファクト固有のビルドスクリプト (/build, /build.d/) を実行する |
recursive-touch |
ELF バイナリとスクリプトの依存関係を再帰的に解析し、atime を更新する。initramfs 用ファイルリストの出力にも使用 |
rebuild-kernel-modules-if-necessary |
カーネルモジュールの再ビルドが必要な場合に emerge @module-rebuild を実行する |
後方互換ツール(旧 genpack 向け)
| コマンド | 説明 |
|---|---|
list-pkg-files |
ランタイムパッケージのファイル一覧を生成する(genpack a6ea03c 以前が使用) |
exec-package-scripts-and-generate-metadata |
パッケージスクリプト実行とメタデータ生成を行う(genpack a6ea03c 以前が使用) |
genpack-exec-package-scripts |
パッケージスクリプト実行とメタデータ生成を行う(メタデータ生成の分離前の genpack が使用) |
いずれも現行の genpack は呼び出さない。それぞれを最後に使っていた世代の genpack が使われなくなった時点で削除する候補。
ダウンロードユーティリティ
ビルド中に外部リソースを取得するためのツール群。
| コマンド | 説明 |
|---|---|
download |
URL からファイルをダウンロードし標準出力に出力する。/var/cache/download にキャッシュを保持 |
get-rpm-download-url |
YUM/DNF リポジトリから RPM パッケージのダウンロード URL を解決する |
get-github-download-url |
GitHub リリースアセットのダウンロード URL を取得する |
メンテナンスツール
ビルド環境の保守に使用するツール群。
| コマンド | 説明 |
|---|---|
unmerge-masked-packages |
マスクされたパッケージを検出・アンマージし、@world を再ビルドする |
remove-binpkg |
Portage バイナリパッケージをアトム指定で削除する。デフォルトは dry-run |
findelf |
ディレクトリツリー内の ELF バイナリを検索する |
with-mysql |
一時的な MySQL サーバーを起動してコマンドを実行し、終了後にシャットダウンする |
ランタイム依存パッケージ
| パッケージ | 説明 |
|---|---|
sys-apps/util-linux |
基本的なシステムユーティリティ |
app-portage/gentoolkit |
Portage 管理ツール (equery 等) |
dev-util/pkgdev |
Gentoo パッケージ開発ツール |
app-arch/zip |
ZIP アーカイバ |
dev-debug/strace |
システムコールトレーサ |
net-analyzer/tcpdump |
ネットワークパケットキャプチャ |
app-editors/nano |
テキストエディタ |
app-editors/vim |
テキストエディタ |
app-misc/figlet |
ASCII アートテキスト生成 |
sys-fs/squashfs-tools[lz4,lzma,lzo,xattr,zstd] |
SquashFS イメージの作成・展開 |
app-admin/eclean-kernel |
古いカーネルの自動削除 |
dev-python/tqdm |
プログレスバーライブラリ(genpack-copyup で使用) |
各コマンドの詳細
genpack-package-scripts
Portage の Python API を使用して @profile、@genpack-runtime(およびオプションで @genpack-devel)パッケージセットの依存関係を再帰的に解決し、パッケージごとのポストインストールスクリプト (/usr/lib/genpack/package-scripts/<pkgname>/) を実行する。
genpack-ignoreeclass を持つパッケージはスキップされる- 非 devel モードでは man ページ、ドキュメント、ヘッダファイル等を除外
- 共有ライブラリモジュール
genpack_pkgに依存する
アーティファクトのビルドスクリプトより前に実行される必要がある。メタデータ生成を担わないのはこのためで、そちらは genpack-generate-metadata が最後に行う。
genpack-generate-metadata
/.genpack/ ディレクトリにメタデータを生成する。
アーティファクトの files/ マージとビルドスクリプトの後に実行される。 ここで書くのは完成したイメージの説明だからである。files/ を既存イメージの rootfs から組んだ場合にそのイメージの /.genpack/ を持ち込んでしまう事故も、最後に生成することで打ち消される。パッケージ一覧は Upper フェーズで runtime set やプロファイルが変化した場合にそれを反映する。
なお packages は @profile / @genpack-runtime を起点とした列挙なので、ビルドスクリプトが emerge で追加したパッケージは(set を書き換えない限り)生成タイミングに関わらず載らない。詳細は ADR-0007。
/.genpack/ に生成されるメタデータ:
arch— システムアーキテクチャprofile— genpack プロファイル名artifact— アーティファクト名variant— バリアント名commit-id— アーティファクト定義の git コミット ID(include_commit_id指定時のみ)timestamp.commit— Portage ツリーのコミットタイムスタンプpackages— インストール済みパッケージ一覧(USE フラグ、説明等を含む)
profile、artifact、variant、commit-id は genpack がホスト側から nspawn に渡す環境変数(PROFILE、ARTIFACT、VARIANT、COMMIT_ID)に由来し、渡されなかったものは単に生成されない。commit-id と timestamp.commit はどちらもコミット ID を含むが別物で、前者はアーティファクト定義、後者は Portage ツリーのものである。
banner(genpack/base[banner] 使用時のログインバナー)はここでは生成されない。パッケージスクリプトが生成するものなので、アーティファクトが files/.genpack/banner を置けば上書きできる。/.genpack/ はアーティファクトが自前のファイル(バージョン情報など)を置く場所としても使われており、上記の genpack 生成分と共存する。
genpack-copyup
overlayfs の copy-up 機構を利用して、ランタイムパッケージのファイルを Upper 層へ転送する。genpack_pkg モジュールを使用してランタイムパッケージとそのファイル一覧を列挙し、各ファイルに対して utime() を呼び出すことでカーネルの copy-up をトリガーする。
mount --bind / <raw_root>で Lower 層のファイルシステムに直接アクセスし、nspawn が仮想化する/dev等を正確に処理する- stage3 ブートストラップで作成されたがパッケージに所有されないトップレベルディレクトリ(
/bin,/sbin,/lib,/lib64等)も明示的に含める /dev/以下は再帰的にすべて copy-up 対象とするtqdmでプログレスバーを表示する
execute-artifact-build-scripts
アーティファクトのルートにある /build スクリプトおよび /build.d/ ディレクトリ配下のスクリプトを実行する。
/buildが存在すれば root として実行/build.d/内のファイルはソート順に root として実行/build.d/内のサブディレクトリはディレクトリ名のユーザーとして配下のスクリプトを実行- 非実行可能ファイルは拡張子からインタプリタを自動検出(
.sh→/bin/sh、.py→/usr/bin/python)
recursive-touch
ELF バイナリのヘッダ(マジックナンバー \x7fELF)を検査し、lddtree を使って共有ライブラリの依存関係を再帰的に解決する。スクリプトの場合はシバン行からインタプリタを検出する。
- デフォルトでは対象ファイルの atime を更新(後続の「最近アクセスされたファイルのみ収集」フェーズで使用)
--print-for-initramfsオプションで initramfs に含めるファイル一覧を出力
download
curl をバックエンドとして URL からファイルをダウンロードする。ダウンロード結果は /var/cache/download に URL の SHA1 ハッシュをキーとしてキャッシュされ、再ダウンロード時には HTTP の条件付きリクエスト (-z フラグ) で変更の有無を確認する。
get-rpm-download-url
YUM/DNF リポジトリの repomd.xml を解析して primary.xml メタデータを取得し、指定パッケージの最新版ダウンロード URL を返す。gzip、bz2、xz 圧縮に対応し、リポジトリメタデータのキャッシュ(デフォルト TTL: 1時間)を保持する。
get-github-download-url
GitHub API を使用して最新リリースのアセットを取得し、正規表現パターンに一致するアセットのダウンロード URL を返す。特殊キーワード @tarball(ソース tarball)と @zipball(ソース zip)にも対応する。
with-mysql
一時的な MySQL サーバーを起動し、指定されたコマンドを実行した後にシャットダウンするラッパーツール。初回起動時にはデータディレクトリの初期化とタイムゾーンデータのロードを行う。ネットワーク接続は無効化され、ローカルソケットのみで通信する。ビルド時のデータベースマイグレーション実行に使用される。
list-pkg-files(後方互換)
ランタイムパッケージのファイル一覧を生成し、パッケージ依存関係グラフを /.genpack/_pkgs_with_deps.pkl に保存する。genpack a6ea03c(2026-05-19、Upper 層の転送を overlayfs copy-up へ切り替えたコミット)で genpack-copyup に置き換えられ、以降使われていない。
exec-package-scripts-and-generate-metadata(後方互換)
list-pkg-files が保存した依存関係データを読み込み、パッケージスクリプトの実行とメタデータ生成を行う。list-pkg-files と対で使われるもので、同じく genpack a6ea03c 以降使われていない。
genpack-exec-package-scripts(後方互換)
パッケージスクリプトの実行とメタデータ生成を 1 つで行っていたツール。genpack-package-scripts と genpack-generate-metadata への分離前の genpack が使用する。生成したメタデータをその後の files/ マージやビルドスクリプトが上書きできてしまうのが分離の理由。現行の genpack は使用しない。
genpack-ignore eclass
genpack-progs の ebuild は genpack-ignore eclass を継承している。これにより、genpack-exec-package-scripts および genpack-copyup がイメージに含めるファイルを収集する際にこのパッケージ自体はスキップされる。ビルドツールはビルド環境(lower レイヤー)で使用されるが、最終的なランタイムイメージ(upper レイヤー)には含まれない。
ソースリファレンス
- genpack/genpack-progs ebuild (b0abbd7)